特集1:日米・新摩擦 

【環境】
地球温暖化防止は貿易戦争へ                    
                原嶋 洋平(拓殖大学国際学部 教授)

COP15は期待はずれだったのか?
  昨年12月に開催された地球温暖化防止のコペンハーゲン会議(COP15)では、ポスト京都議定書の枠組みについて議論された。アメリカからはオバマ大統領が、日本からは鳩山首相がそれぞれ出席し、主要国の首脳が一同に会したが、期待されたほどの成果はなかった。それでも悲観することはない。程度の差こそあれ、主要国が揃って温室効果ガス排出量削減の中期目標を表明したからだ。特に、アメリカと中国がいち早く中期目標を表明したことは画期的であった。地球温暖化防止のために、石油依存を減らし、低炭素社会を実現しようという取組みは、世界的な潮流として定着した。

アメリカは地球温暖化対策に消極的か?
  アメリカは産油国であり、その経済活動は石油に大きく依存している。ヨーロッパの国々や日本と比べると、アメリカでは地球温暖化対策は取り難い。そのため、国際競争力の低下や失業者の増加など経済への悪影響を理由にあげて、アメリカは京都議定書の批准を拒んできた。しかし、このことだけをもって「アメリカは地球温暖化対策に消極的だ」とレッテルを貼ってしまうのでは早計であろう。アメリカも地球温暖化対策が国益につながると判断すれば、一転して、地球温暖化対策に積極的に乗り出すに違いない。

鍵を握るのは新技術の開発
  世界各国は地球温暖化対策に役立つ新技術の開発に躍起である。再生可能エネルギー(風力、太陽光など)、燃料電池、バイオ燃料、炭素の固定・貯留など、新技術の例には枚挙に暇がなく、今までにない全く新しい提案が現れる可能性もある。現時点で、どの技術が優位かは定かではない。これからの開発競争がその行方を決定づける。アメリカも日本もこの開発競争に負ければ、国益を損なってしまう。もしアメリカが新技術で支配的な地位を獲得すれば、地球温暖化対策の強化は国益に適う。そうなれば、アメリカが地球温暖化対策を世界的にリードすることになるかもしれない。

「気候に優しい技術」の貿易自由化と米中クリーンエネルギー協力
  アメリカはすでに動き始めている。例えば、アメリカはEUと共同して、WTOのドーハラウンドと地球温暖化交渉の双方の場で、気候に優しい技術(地球温暖化防止に役立つ技術)の貿易自由化の推進を提案した。これは、新技術を低いコストで世界中に広める戦略である。特に、最大のマーケットになるのが、世界第一位のCO2排出国となった中国である。そこで、オバマ大統領は、昨年11月の米中首脳会談で、真っ先にクリーンエネルギーに関する米中協力の強化で合意を取りつけた。アメリカのクリーンエネルギー技術を中国に売り込もうという意図は明らかだ。アメリカは着々と布石を打っている。

貿易と地球温暖化を結びつけた議論を
  地球温暖化防止は貿易戦争になる。深刻な産業公害を克服して、経済大国になった日本は、世界中で最も優れた「省エネ国家」を築き上げた。アメリカと比べると、エネルギー利用効率は約2倍も高い。省エネ技術ではアメリカより優れているといって過言ではない。このような経験と実績は、低炭素社会の実現に大いに役立つ。しかし、今後の取組みを怠れば、新技術の開発競争で取り残されてしまう。この先、日本は地球温暖化防止をめぐる激しい貿易戦争のなかで、アメリカとしのぎを削らなければならない。日本では地球温暖化問題に対する世論の関心は高まったが、貿易と地球温暖化を結びつけた政策議論がまだ少し足りないように思う。基準規格、補助金、排出量取引、国境税調整など問題は山積だ。



原嶋

原嶋 洋平(はらしま ようへい)

略歴:名古屋大学大学院修了。博士(学術)。地球環境戦略研究機関(IGES)主任研究員を経て、2000年から拓殖大学に。国際協力機構(JICA)環境社会配慮審査会委員、東京都文京区リサイクル清掃審議会委員、神奈川県山北町環境審議会委員などを兼務。

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