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2015年04月16日NEWS

現場インテリジェンス  ジャーナリスト大津司郎さん講演会

4月15日、アフリカジャーナリストの大津司郎さんの講演会が、国際学部棟で開催されました。
 大津司郎さんは1948年生まれ。東京農大在学中からアフリカを訪ね、卒業後はタンザニアで青年海外協力隊にも従事しました。1990年代以降はビデオカメラを携え、アフリカの紛争地域の単独取材を続けられています。現在までに170回に及ぶアフリカ訪問を行い、取材の成果はテレビのニュース番組でもしばしば放映されています。最近では内戦状態が続くソマリアを訪ね、暫定政府大統領とのインタビューを実現するなど話題となりました。国際学部とは学部開設直後から交流があり、毎年夏に甲斐信好教授が引率するアフリカスタディツアーのコーディネートでもお世話になっています。
 

この日のテーマは「現場インテリジェンス」。海外で安全を確保しながら行動するにはどうすればよいのか。最近は日本でも、こうした話題がごく日常的なものになりつつあります。ありきたりの安全論にとどまらない、まさに現場に根ざした身の守り方に、100名近くの学生が聞き入りました。

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アフリカジャーナリストの大津司郎さん
まず、海外で身を守るために心がけることとして、3つのポイントが示されました。一つ目は、相手よりも自分が「偉い」とは、決して思ってはならないということ。紛争地の人々は国境、民族が複雑に絡み合った中で生きている「百戦錬磨」の人たち。鋭い嗅覚をもっています。自分たちとは違うと思われた瞬間に、ひとつのリスクを負うことになります。偉ぶるな。おごるな。大津さんは強調します。
 
二点目は、慣れるなということ。常に初めてその土地を訪れるような、フレッシュな感覚で物事に接することがとても大切なのだそうです。こちらも具体的な事例を紹介しながら、「慣れ」がもたらすリスクを説きました。
 

そして三点目は、自分たちは所詮「よそ者」だということを忘れてはならないということ。治安が定まらない地域では、外部からやってきた人間は、常に見られていると思った方がいい。20代に青年海外協力隊として赴任したタンザニアでの体験を引き合いに、地域の人々と一体になれたという錯覚がもたらす危険について指摘しました。

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「信頼のグラデーション」を図示しながら説明する大津さん
紛争地域を取材するジャーナリストは、どのようにして目的を達するのでしょうか。ソマリアでの取材で大津さんは、銃撃戦、暫定政府大統領とのインタビュー、海賊との接触、そして検挙された海賊たちが収容されている刑務所と、ほぼパーフェクトに取材ができたといいます。その成功の秘訣が、大津さんが「信頼のグラデーション」と呼ぶ人間関係にあります。
 
長年にわたる付き合いで信頼できる現地のエージェントAさんから、まず取材対象に近い別のエージェントBさんを紹介してもらうことから取材が始まります。Bさんには、紛争地域で高い政治力を有する別の人物、Cさんの紹介を受けます。BさんとCさんと大津さんは初対面ですが、その際にいかにその人物を見抜くかが、取材の成功と身の安全の確保に直結します。とはいうものの、人を介するごとに、新たに紹介された人物が信頼できるかどうかを判断するのは難しくなってきます。信頼感は、徐々に心細いものとなっていく(グラデーション)。そんな状況下でも、紹介される人物ごとに、この人は信用できるかどうかを見極めることがとても重要なのだと力説しました。さらに、このときに忘れてはならないのが「お金」。講演ではBさんとCさんに会った際の生々しいお金のやり取りについても、臨場感あふれる語り口で紹介されました。

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コーディネーターの甲斐信好教授
相手が信頼できる人物だと判断できたうえで、次に心がけるべきことが、humble(偉ぶらない)、sympathy(相手に対する共感)、そしてstraight(ハッキリ伝える)の、三つのキーワードです。たとえば、「今回の取材では、暫定政府大統領との会見と海賊の取材がしたい」とハッキリ伝えることが大切だといいます。
 
さらに紛争地では取材用車両の「ドライバーが命のカギを握る」という金言も紹介。運転手は現地ガイドであると同時にインテリジェンスの要となります。信頼できる運転手は体からオーラが出ていて一目でわかるそうです。

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心臓に手を当て「頼んだぞ」というジェスチャーを示す大津さん
大津さんは、アフリカのとある町の酒場でのちょっとした行き違いから、街中の路上で100人の群衆に取り囲まれてしまった経験があります。100人の敵意に囲まれた状況から、たった一人の日本人がどうやって脱出できたのか。100人もの人がいれば、その中に一人は「話が通じる人物」が必ずいるそうです。群衆の一人一人を観察し、その人物を見つけたら駆け寄り、身振り手振りも交えて事情を説明する。「あなたは信頼できる人だ。私は間違っていない。事情をきちんと説明するから助けてほしい。」。それが伝われば、相手は味方になってくれ、さらにその人物に同調した人物が現れ...。ついには大津さんに味方する人々の輪が、敵意をもつ人たちと拮抗するほどになり、難を逃れることができたそうです。そのときの状況を、教室の最前列に座っていた学生を相手に再現し、「現場インテリジェンス」の実演を披露しました。
 
この実演に学生たちの尊敬の眼差しがさらに高まりそうな雰囲気を察し、甲斐教授からは「でもケンカはしないこと!」と釘を刺さされていました

講演の終わりには、国際学部生に向けて、海外で行動する際のいくつかのアドバイスも行われました。まず最初のアドバイスは、「目立つな」。服装や立ち居振る舞いはもちろんのこと、インターネットのSNSや動画サイトの利用に際しても、目立たないという配慮が不可欠であり、決して自分の居場所を明らかにしてはならないと指摘しました。
 
ほかにも、空港でセキュリティチェックを済ませたら早く飛行機に乗ること、入国時に税関審査が済んだらグズグズせずにすぐに立ち去ることといった、具体的なアドバイスもいただきました。
 
講演会場では大津さんが取材してきた動画も上映され、海外へ行く機会が多い国際学部生にとっては、さまざまな発見に満ちた90分間でした。

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群衆の中から瞬時に信頼できる人物を見いだし、信頼感を得る方法を実演する大津さん

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